中国で模倣品が多いワケ(その1:お金とニーズの話)

はじめまして、企業内でブランド保護&模倣品対策をやっております弁理士の「ちざたまご」です。

縁あってBRAND TODAYで記事を書かせて頂くことになりました。

これからどうぞよろしくお願い致します。

  

はじめに

メーカー系企業の中で模倣品対策を担当しておりますと、どうしても中国製と思われる模倣品がゾロゾロ発見されます。ネット通販であれば、カタコトの日本語の説明、ありえない型番、発送地を見てみると広東省。。

それら模倣品を発見しては対策するのが仕事なわけですが、社内外から「何で中国からこんなにニセモノが来るんだ?」と素朴な質問を寄せられることが良くあります。

模倣品対策を飯のタネにしている人間にとっては、中国が模倣品の発信源というのはある種「常識」な訳ですが、正面からその理由を問われれば答えにくいのもまた事実。

そのため、本連載は「中国で模倣品が多いワケ」を考えてみるところから始めてみたいと思います。

  

中国発模倣品はやっぱり多い?

そもそも客観的に見たら「本当に中国発の模倣品は多い」のでしょうか。もしかして単なるイメージ、決めつけ、思い込みかもしれませんよね・・。

そこでデータを調べたら、中国発の模倣品が圧倒的に多いという公的な資料が存在していました。 毎年経済産業省が発表している“模倣品相談に関する年次レポート”があるですが、その中に国別の相談割合についてのグラフがあり、そこで中国は2017年度 73.3%と圧倒的ナンバー1(ワースト1?)

  

出典:2018年度模倣品・海賊版対策相談業務に関する年次報告概要

  

過去をさかのぼっても、政府がレポートを発行し始めた2003年度から中国は常に模倣被害相談国のナンバーワンであり続けています。16年間不動のチャンピオン・・・これでは中国=模倣品大国と言われても仕方がない気がしますね。

参考:政府模倣品・海賊版対策総合窓口年次報告書 http://www.meti.go.jp/policy/ipr/reports/index.html

  

中国発模倣品が多いのはなぜ?

なぜこれほど中国発の模倣品が多いのでしょうか。 様々な理由があるにせよ、私は大きく3点で説明できると考えています。

 
 1.ホンモノは買えないバイイングパワーの受け皿 (お金とニーズ)  
 2. ホンモノから派生した世界最強の製造力    (製造)  
 3. スマホで繋がる模倣品ビジネスの輪      (流通・販売)  
 

一気に説明すると長くなってしまいますので、記事を分割し、第1回は「1、お金とニーズ」について考えていきたいと思います。

  

そもそも普通の中国人って、どれぐらいお金を持ってるの?

先日、友達から「中国の都市部では中間層が急激に増えて、日本にも旅行者がバンバン来ている。しかもみんなお金を持っていて、お土産爆買いとか、高級旅館に宿泊とかしている人も多いとニュースで見た。そうなると、中国人もみんな模倣品をわざわざ買わなくても良くなるんじゃない?」という質問をされました。

確かに、今の日本だと「これ、模倣品です」と堂々と街中で売っているところはないですし、ネットショッピングでも明らかな模倣品は少ないですよね。中国が日本並みに経済成長するのであれば、模倣品は放っておいても自然淘汰されていくように思います。

しかし残念ながら、どう楽観的に考えても、中国で模倣品が自然に消滅することはなさそうです。 それは何故か。まず、「中間層の位置づけが日本と中国ではだいぶ違う」のです。

そもそも、あなたが中間層という言葉を聞いた時に、いくらぐらいの年収をイメージするでしょうか。年収300万?500万円?いや、1000万円まではまだまだ中間層でしょうか。

この点、調べると日本の世帯平均年収は約560万円(2018年7月厚生労働省 国民生活基礎調査)となっています。この前後が日本の「中間層」だと政府が明確に定義しているわけではなく、民間のレポートでも意見が分かれるところですが、前後して400~800万円ぐらいの世帯年収なら中間層だろうなというのが実感に近いと思います。 (ここから税金等を控除したあとの可処分所得は8割前後ですから、可処分所得ベースだと300~650万円ぐらいとなります)

一方、「中間層」のグローバルスタンダードとなると金額がずいぶん違います。経済産業省「通商白書」に、新興国市場を分析するためのベースとなる低所得層・中間層・富裕層の定義が載っているのですが、これによると“中間層”とは「年間の世帯可処分所得が5000ドル以上、35,000ドル未満」の層。それ以上は富裕層ということになっています。 つまり、年間で世帯可処分所得が55~385万円もあれば、世界基準では中間層になるのです!

では、中国の中間層はどれだけいるのさ、と調べてみたところ、2018年時点で中国の総人口が約14億人のところ、2017年の中国政府レポートで「中国では4億5000万人が中間所得世帯に属し、その上の1億5000万人が高所得世帯に属する」という内容がありました。

このレポートが、通商白書の所得基準を採用しているか明らかではないのですが、近い基準だとすれば、「中国では人口の50%を超える約8億人が、年間の世帯可処分所得55万円以下で生活している」ということになります。 更に別の数字を調べると、2017年、中国国家統計局が発表した中国全土における住民1人あたりの可処分所得の平均値は、年間2万5974元(約44万円)だそうです。

参考:中国、中間層の国民が世界最多にhttp://japanese.china.org.cn/business/txt/2018-03/09/content_50691689.htm

   

この可処分所得は税引き後の「自分の意思で使えるお金」なので、ここから住宅費や食費、光熱費・通信費などをまずは捻出しなければなりません。

中国は物価が安いと言われますが、実際問題、上海・北京など大都市の物価は高騰しており、地元の食堂なら日本の半額以下で食べられても、モールやカフェに行くと正直日本の価格より高いです。

ビックマック指数という、世界のビックマックの価格を比較して物価を測定しようというユニークな数値があるのですが、

1ビックマック=日本390円、 中国 約330円

と、15%しか変わりません。

参考:世界のビックマック価格ランキング https://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html

  

食費などの「生きるために必要なお金」を差し引いていくと、「平均的な中国人」で、年間で44万円手元にあっても、自分の趣味やブランド品に使えるお金は年数万円、下手すれば数千円しか残らないだろうことが分かります。 日本に来ている中国の旅行者は、やはりある意味、選ばれし階層の人だったのですね。

  

スマホを見ていれば欲しくなる

さて、あなたが「平均的な中国人」であるならば、本当の意味で自由に使えるお金は年数万円しかないことが分かりました。幸いなことに、現代は無料で楽しめる娯楽が色々と提供されています。TVしかり、SNSしかり、スマホゲームしかりです。 中国のインターネットユーザーは7.7億人と人口の半分以上がすでにネットに繋がっており、うち97.5%はスマホユーザーです。都市部のインターネット普及率は73%と、若者なら大体使ってます。

参考:中国のインターネット利用状況  http://x-c.co.jp/blog/china_internet_sns_promotion_201807/

  

スマホで友達とSNSアプリで繋がり、動画を見て、無料のゲームだけを楽しんでいれば、一見お金はかからなさそうですよね。

しかし・・・人間はそんなに都合よく出来ていません。

スマホでSNSを見ていれば広告が出ます。友達の「〇〇買ったよ」という自慢なのか報告なのか、分からない通知が来ます(どう受け取るかはあなた次第です)。動画にも広告が出ますし、無料のゲームは広告収入で稼いでいます。

すなわち、スマホは人間の「欲望刺激マシーン」なんですね。

我々日本勢も、「国内はもう飽和、これから海外だ!」と発破をかけられ、中国にモノを売りに行っています。もちろん欧米・韓国の企業も進出していますし、中国の地場ブランドも山ほどある。

誰もが自分の商品を売りたいです。さて、どうするか?各社ともにインターネット広告、ガンガン出してます。無料のコンテンツを楽しもうとしていたら、その結果広告をいっぱい見ることになって物欲が刺激される。ただ、あなたの手元にあるお金は限られている。欲しいものは山ほどある。でもお金はない。

さて、どうするか?ここで、模倣品の出番です。

考えてみて下さい。広告で見た有名アパレルメーカーのジャケットが正規品で2万円とします。どうしても欲しい、でも1枚買ったら最低半年は好きなものが買えません。なかなか踏み切れない。そんなあなたは、ある日ネットサーフィンをしていました。そうしたところ、中国のネット通販サイトで欲しかったジャケットと全く同じデザイン、ブランドロゴの出品を見つけました!価格は、5000円とあり得ない安さです。この値段なら4枚買える。

これはどう見ても正規品ではない・・・。しかし、販売ページには「工場直送!」、「気に入らなければ返品可」とか書いてあります。モノがダメなら返せばよい。

あなたならそんな状況で、購入を我慢できる自信があるでしょうか。

  

おう盛だがホンモノは買えないバイイングパワーの受け皿

さて、まとめます。中国で模倣品は何故多いのか?

  1. 中国の人口は14億人いて、うち約8億人は年間の世帯可処分所得 55万円以下で生活している。平均的な中国人が1年間で使える可処分所得は44万円だけ。
  2. 都市部で働く平均的な中国人なら、大体スマホは持っている。利用時間は1日平均4時間!
  3. スマホを使っていれば嫌でも物欲は刺激される。山のような広告の中、あれも欲しい、これも欲しい、でもお金はない・・・。悪魔のささやき、「そこに模倣品があるじゃろ?」

実際のところ、日本から中国にモノを売ろうとしている企業の大半は、14億人のうち、1億5000万人の高所得世帯に向けて商売しています。

この中には、起業に成功して上場を決めたとか、上海で不動産を持っていたら6倍に値上がりしたとかいう、人口1%以下しかいない選ばれし「超富裕層」も含まれており、各社ともにその歓心を買おうと必死なのですが、現実には「そこまでお金を持っていない、残り12.5億人」も同じように広告を見ている訳です。

普通の中国人、1人1人が使える金額は多くなくとも、12.5億人集まれば巨大なバイイングパワーになる。彼ら・彼女らのニーズの受け皿として、模倣品ビジネスが成立している。

これが厳然たる中国の現実だと思います。

次回は、2、「世界最強の製造力」の側面から考えてみたく、よろしくお願い致します。

  

<ライター紹介>

ちざたまご

都内メーカーの知財部に勤める文系弁理士。

主な担当業務は商標管理、侵害品対策。社内知財セミナーで睡眠者が1人も出ないように試行錯誤中。 良く行く中国模倣品街ではそろそろ顔が割れてそうで、覆面をかぶるべきか思案しているところ。

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